ドイツ・バイエルン州ヘルステック展示会Bits&Pretzels Healthtech

Bits&Pretzels Healthtechは2023年6月20日から21日にドイツ・ミュンヘンで開催された、ヘルステックに特化した展示会である。現地のエコシステムや日本進出に関心のある企業を紹介する。
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Bits&Pretzels Healthtech」は2023年6月20日から21日にドイツ・ミュンヘンで開催された、ヘルステックに特化したカンファレンスである。「Bits&Pretzels」は毎年9月にドイツ・ミュンヘンで開催されており、同カンファレンスの中でもヘルステックに焦点を当てた「Bits&Pretzels Healthtech」は今年で3回目の開催となった。なお、以下より「Bits&Pretzels Healthtech」を「本イベント」とする。

南ドイツ・バイエルン地域のスタートアップエコシステム

本イベントが開催されたミュンヘンはバイエルン州の州都であり、ドイツ全体で最も重要なスタートアップハブの1つだ(ドイツは16の連邦州から成り立っており、バイエルン州はその1つに該当する)。また、ミュンヘン工科大学など著名な大学や研究機関があり、研究開発、技術移転、起業家精神の育成に重要な役割を果たしている。

南ドイツ・バイエルン地域はAI、フィンテック、インシュアテック(保険×テック)、IoT、インダストリー4.0、モビリティ、航空宇宙産業、ヘルステック、医療テック、ライフサイエンスが盛んなエリアとして知られている。特にヘルステックは成長産業であり、この地域には400を超える病院、28の主要大学、多数の医療関連研究機関が存在し、ドイツ国内の医療関連特許の40%以上を占めている。さらに、「Roche Diagnostics」や「Novartis」、そして「第一三共」などの企業がこの地域に拠点を持っており、ノーベル賞受賞者を多く輩出しているマックス・プランク研究所3拠点に大学病院、ドイツ保険研究センター6拠点を含む世界的に有名な機関も存在している。また、デジタルヘルスの起業家に20億ドル以上を投資するEIT Health(European Institute of Innovation and Technology Health)も同地域に拠点を構えている(参考)。他にも、バイエルン地域内にあるヴュルツブルクには医療産業集積地が存在している。

イベント会場の様子

(撮影:SUNRYSE)

本イベントには、欧州や北米、アジア諸国から約2,500名が参加し、2日間で合計100社のスタートアップが出展しており、イベント会場はスタートアップのブース、トークセッション、ネットワーキングエリアから構成されていた。入り口には、開催地ミュンヘンで毎年10月に開催されるオクトーバーフェストの回転式バーが設置され、お昼過ぎにはビール片手にネットワーキングを楽しむ参加者が多く集まっていた。

(撮影:SUNRYSE)

本イベントではもネットワーキングアプリ「Brella」を使って参加者がネットワーキングを行なっていた。このアプリは、参加者同士を簡単につなぎ、交流できるように設計されており、アプリ内で自分と同じ関心を持った人や、同じ業界で働く人、会いたい人を探すことが可能である。

日本への進出に関心を示しているスタートアップ

本イベントでは、1日目と2日目で出展スタートアップが入れ替わり、2日間で合計約100社のスタートアップが出展していた。日本市場への進出に興味を持っており、日本のビジネスパートナー、ディストリビューターと繋がりたいスタートアップを紹介する。

ICAROS

(撮影:SUNRYSE)

ICAROS」は、VRとフィットネス、ゲームを融合させた運動体験を提供しているミュンヘン発スタートアップだ。同社の製品「ICAROS Pro」は世界中のジム、リハビリ施設、ホテル、娯楽施設などtoBを相手に導入されている。重さは124kg、価格は9,900ユーロである。家庭用製品の「ICAROS Home」(2,990ユーロ)は重量が「ICAROS Pro」よりも軽量の49kg、価格は2,990ユーロだ。どちらの製品もVRセット、モニターに対応、「ICAROS Pro」は曲面スクリーンにも対応可能だ(同製品にVRセット、モニターは付随していない)。

Devanthro - the Robody Company

(撮影:SUNRYSE)

Devanthro - the Robody Company」は人間型ロボットを開発するスタートアップで、ロボットは高齢者向けに薬の管理や娯楽・日常生活の支援、捜索、発見、夜間の支援などを提供する。具体的にこのロボットを使って離れた場所に暮らす家族と連絡を取る、通院の予約をする、交通手段の調整をすることなどが可能だ。ロボットは同社が雇用している介護者、もしくは家族が遠隔でロボットの操作を行うため、現地にいる必要がない。イベントでは、同社のブースにてロボットがどのように操縦されているかを実際に見学できた。操縦者が腕を動かすと、ほぼ同じタイミングでロボットも動いていた。

(撮影:SUNRYSE)

Autoscriber

(撮影:SUNRYSE)

Autoscriber」は、オランダのライデン大学医療センターの「CAIRElab(Clinical AI Implementation and Research Labの略で、医療現場におけるAIの実装に焦点を当てている施設)」から生まれたスタートアップで、AIを活用した音声認識と、自然言語処理技術により、医師と患者との対話を記録し医療記録作成を支援する。具体的に同社の製品、Autoscriber Flowは、患者とのリアルタイムな会話を録音し、AIエンジンが医療ノートを自動的に作成するウェブアプリケーションだ。患者の同意で録音を開始し、AIエンジンがリアルタイムで文字を起こし、医療概要を自動作成する。これにより、医師は患者との対話に集中することができし、医師は効率的に重要な情報をEHR※にコピーすることが可能だ。

※EHRはElectric Health Recordの略で、電子カルテに含まれる診断に関する情報以外に検査情報、患者の基礎情報、診療行為、薬剤情報などが含まれている。EHRは外部の医療機関と情報連携を意図して設計されており、患者を単一の医療機関ではなく地域でケアする考え方があり、他の医療機関受診時にかかりつけ医の紹介が必要とされるヨーロッパを中心に広がっている仕組みだ。

HigoSense

(写真:同社HPより)

HigoSense」は誰でも簡単に検査を行える遠隔医療用デバイスを開発したポーランド発のスタートアップだ。同社が開発したデバイス、Higo®は温度計、聴診器、耳鏡、皮膚用フード、喉の鏡の5つのモジュールが含まれており、検査を行うユーザーには必要なモジュールの使い方についてが順序通りに説明される。検査情報はアプリ内で医師に送信、ユーザーは診断結果をスマートフォンのHigoアプリで受け取る。筆者自身も同社のブースでデバイスを試したが、直感的に使用できる印象を受けた。一方、デバイスの画面が小さく、比例して文字も小さくなっているため、人によっては読みづらい場合もあるだろうと感じた。

GlucoActive

(写真:同社HPより)

GlucoActive」は、特許出願中の革新的な分光法をベースとした非侵襲的グルコース測定技術を開発するポーランド発スタートアップだ。同社の最初の製品であるGlucoStationは、非侵襲的グルコメーターの一種で卓上型デバイスであり、糖尿病を患う患者が家庭で使用することを目的としている。同社によると、日本の「浜松ホトニクス」と連絡を取り合っているとの話であった。

CLINARIS

(撮影:SUNRYSE)

CLINARIS」は医療機器(ベッド、心電図や超音波装置、輸液ポンプ)の正確な位置と衛生状態やメンテナンス状態を表示し、余分な在庫や看護師・技術者の検索時間を大幅に削減するソフトウェアサービス、「HPM(R)」を提供している。さらに同プロダクトは、看護スタッフを順次利用可能なベッド・機器に案内し、さらに再処理が必要な医療機器を洗浄業者に案内し、技術スタッフには修理、メンテナンス、またはテストが必要な医療機器を提案する。また、同社のサービスは「Roche Diagnostics」が提供しているcobas(R) pulseに導入されている。cobas(R) pulseは、ワークフローを改善し、より良い患者ケアを可能にする血糖管理ソリューションである。Rocheの担当者によると、このcobas(R) pulseには、すでに14のアプリが導入されており、全てスタートアップが開発したサービスだという。

「Bits&Pretzels Healthtech」ピッチコンペティション受賞スタートアップ

EIT Health Catapultは、EIT Healthによる健康医療分野のスタートアップを支援するプログラムだ。EIT Healthは、欧州イノベーション技術研究所(EIT)によって支援されており、130のパートナー企業やスタートアップとのネットワークを持ち、ミュンヘンに本部を構えている。同機関は、欧州の健康医療分野において、イノベーションを推進し、持続可能なソリューションの開発、研究、および実装を促進することを目的としている。

(撮影:SUNRYSE)

EIT Health Catapultは、欧州が直面する健康上の課題に革新的なソリューションを提供できるアーリーステージのスタートアップの育成を目的としており、メンタリング、トレーニング、ネットワーキングの機会、そして投資家や業界パートナーを含むネットワークへのアクセスを提供している。同プログラムは今年で7年目を迎え、すでに200以上のスタートアップを支援し、400人以上の投資家と2500人以上の医療専門家からなるコミュニティがこのプログラムを支援している。同プログラムの参加スタートアップは、プログラムの集大成として「Bits&Pretzels Healthtech」でピッチを行う。本イベントにて、バイオテック、メドテック※、デジタルヘルス各カテゴリーで受賞したスタートアップを紹介する。

なお、各社のピッチを聞くことができなかったため、各部門の受賞企業の紹介にとどめている。各社のソリューション詳細についての紹介ができかねる点を先にお詫びさせていただく。

※メドテック(MedTech)は医療×テクノロジーを掛け合わせた造語。

メドテック(MedTech)部門:Time is Brain

(写真:同社YouTubeより)

メドテック部門では、「Time is Brain」が受賞した。同社は脳卒中発症から患者の全行程において、脳の生存能力をリアルタイムでモニタリングできるポータブル医療機器・脳卒中心電図、BraiN20(R)を開発した。

バイオテック部門:immuny x Pharma

(写真:同社HPより)

immuny x Pharma」は、慢性疾患における好中球(感染症と闘う白血球)に焦点を当て、免疫調節のための薬剤を開発しているイスラエル発スタートアップだ。

デジタルヘルス部門:deepeye

(写真:同社HPより)

deepeye」は、ドイツ発のAIベースの網膜治療アシスタントであり、眼科医を支援することで加齢による失明を防ぐことを目的としている。同社は、ディープラーニングのアルゴリズムとコンピュータビジョンを駆使し、医療画像を正確に検出・分析するプラットフォームを開発し、より迅速な診断を可能とした。

また、ピッチコンペティションのファイナリストに選ばれたスタートアップ全社のオンラインピッチ動画はこちらから視聴可能だ。

編集後記

日本と欧州はともに少子高齢化が進んでおり、日本進出や日本企業との事業提携に興味を持っているスタートアップが非常に多い印象を受けた。また研究開発のためにより多くのデータが必要であることから、スタートアップ側からは、日本でデータ提供が可能な自治体や企業、病院はあるかといった質問を複数受けた。他にも、特定の企業と連携したいという意欲的なスタートアップとも話す機会もあった。また、本イベントへの参加を通じて、大企業とヘルスケアスタートアップとの提携事例を目の当たりにすることができ、「Roche Diagnostics」が展開する製品の1つに採用されているサービスが全てスタートアップによるものであることに驚いた。

また「Roche」は本イベントのメインパートナー3機関のうちのひとつであることにとどまらず、「Plug and Play」が運営する大企業とヘルステックスタートアップの協業プログラム「Creasphere」のメインパートナーでもある。このプログラムは既存企業とスタートアップ企業がヘルステック分野における提携や協業が模索されるものだ。

今後もSUNRYSEでは、海外のイベントに参加し、現地の方からの生の情報を取り入れ、海外の事例や大企業とスタートアップの協業事例に注目し続けていく。


SUNRYSEでは海外スタートアップイベント視察、海外スタートアップと日本企業の協業サポートを行なっています。海外スタートアップへの投資、協業に興味のある方、ぜひご連絡お待ちしております。


表題画像:Photo by SUNRYSE

執筆:Sayaka Nakashima

編集:Minori Fujisawa, Eri Furukawa

表題画像作成:Naoko Ogawa, Sayaka Kito

執筆者
中嶋 清楓 / Sayaka Nakashima
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