2023年2月27日・28日に東京国際フォーラムで開催されたCity-Tech.Tokyo 2023。SUNRYSEは本イベントの公式アンバサダーを務め、現地での取材を行った。
City-Tech.Tokyo 2023とはスタートアップとのオープンイノベーションを通じて、持続可能な都市を実現するための、日本最大級のスタートアップイベントである。都市課題を乗り越え、新たな都市像を創り出すための多彩なアイデアやテクノロジーについて、国内外からの参加者により、セミナー、展示、商談会などが展開された(参照)。
本レポートではDAY1に引き続き、会場内の最新技術に関する展示やDAY2のスタートアップデモデイ、ピッチコンテストなどを紹介する(City-Tech.Tokyo 2023 Day1イベントレポートはこちら)。
SusHi Tech TokyoとはSustainable High City Tech Tokyoの略で、最先端のテクノロジーやデジタルノウハウなどを通じて東京都から「持続可能な新しい価値」を世界に発信するプロジェクトである。本イベントでも会場内入り口付近に特大展示ブースが設けられており、City-Tech.Tokyo 2023の4つのメインテーマに沿った盛り沢山の内容となっていた。本記事では、興味深かった展示をピックアップして紹介する。
写真:SUNRYSE
写真:SUNRYSE
「エキマトぺ」は、駅のアナウンスや電車の接近音などの環境音を、文字や手話映像・オノマトペとして視覚的にディスプレイに表示する装置である。川崎市立聾学校の学生との共創により生まれたアイデアで、聴覚障害を持つ人の電車利用を安心安全、かつ楽しい体験にするために実現された。プロジェクトチームは、富士通株式会社, 東日本旅客鉄道株式会社, 大日本印刷株式会社により構成されている。
ブースを担当されていた方によると、実証実験では自動販売機の上に設置され、「電車の音を初めて知った」「なくてはならないけど誰もやらなかった」と話題を呼び、Twitterで20万リツイート以上の反応を得たとし、今後は収益化方法について検討していく方針だそうだ。
写真:SUNRYSE
凸版印刷株式会社が提供する「VoiceBiz (R) UCDisplay」は、音声入力の翻訳を行い、透明ディスプレイ上に会話の字幕を表示するサービスである。
ターゲットは自治体や駅の窓口業務などを行う団体や企業である。日本語の話せない訪日外国人や聴覚や発話に障害を持つ人などとのコミュニケーションを支援する。ディスプレイの下部に備えられた端末で音声入力を行うと、聞き手側のディスプレイに翻訳された言葉が表示される仕組みだ。日本人同士でも聴覚や発話に障害のある人の場合、キーボード入力で利用することができる。
同社の音声翻訳サービス「VoiceBiz」が翻訳の基幹的な役割を果たす。英語だけでなく12言語の音声翻訳に対応している点も魅力的だ。ブースの担当者の方によると、2023年6月頃から販売を開始する予定となっているそうだ。
写真:SUNRYSE
会場入り口付近に設置された目を引く展示は「SkyDrive」が開発するeVTOL(いわゆる空飛ぶ車)である。eVTOLは通常の航空機とは異なり電動モーターで動く点が特徴である。このエンジンの違いにより、住環境にも耐えうるノイズの少なさや垂直の離着陸を可能にする。次世代の航空機と呼ばれる理由は低コストの運用と安全性の高さであり、内臓されるセンサーはIPhoneに実装されているものと同様の種類とのことだ。
Day1には「実用化が進む”空飛ぶクルマ”の新事情」と題して、eVTOL業界の最先端を走る企業によるトークセッションが行われ、未来の都市におけるモビリティの可能性を体感できた。
また同セッションの中では「空では駅や高速道路などのインフラを新たに作る必要がない」と強調され、信号や待ち時間といった既存インフラの煩わしさから解放される世界が実現すると紹介された。
「SkyDrive」はUAM(Urban Air mobility)の規制や航空業界での認証を目標に、2025年の大阪・関西万博で大阪ベイエリアのエアタクシーサービスの実現を目指している。
「スタートアップ・エコシステム 東京コンソーシアム」では、スタートアップ・エコシステムの形成促進、産学官によるスタートアップの創出・成長促進に取り組んでいる。そのうちの1つである「ディープ・エコシステム」は、今後急成長が見込まれるスタートアップを選抜して集中的に支援することで、ユニコーンへの成長を後押しする取り組みである(参照)。
City-Tech.Tokyoのデモデイでは、令和4年度の「ディープ・エコシステム」支援対象企業に選定された成長の著しいスタートアップ5社が登壇し、ピッチを行なった。登壇したのは「INNOPHYS CO.,LTD.」「inQs Co., Ltd.」「TechMagic, Inc.」「RevComm Inc.」「Human Life CORD Japan Inc.」である。ピッチの内容を一部抜粋して紹介する。
写真:SUNRYSE
同社は、東京理科大学発のベンチャー企業で、人や重い物を持ち上げる時や中腰姿勢を保つ時の動きをサポートするマッスルスーツ(バックサポーター)を開発・販売している。バッテリー不要で、軽量、着脱しやすいという強みを生かして、農業や製造業、物流、介護現場へ導入されており、これまでに25,000ユニットのスーツを販売した実績を持つ。2023年2月時点で、ヨーロッパ、アジア、メキシコでの販売を行なっているそうだ。
写真:SUNRYSE
同社は、光による発電素子を活用した環境発電技術でクリーンエネルギーの提供を行うスタートアップである。雨天や曇り、室内の蝋燭の光でも発電可能な極低照度型光発電素子「SQ-DSSC」と無色透明な発電素子「SQPV」を開発する。「SQ-DSSC」はIoTデバイスの自立電源として機能し、電池交換や配線を不要とする。また「SQPV」は無色透明であることから、ビルや自動車の窓ガラスの内枠に二重構造で設置すると遮熱、発電、採光に加え、およそ4割の電力効率向上を実現すると説明していた。
2016年には「Japan Venture Awards 技術イノベート賞」を獲得し、2017年には「IDTechEx 2017 Best Technical Development within Energy Harvesting」などを獲得している。セッションの最後には、電力のない地域で電力供給を実現したいと力強くビジョンを語った。
優勝賞金1000万円を賭けた白熱のピッチバトルCity-Tech Challenge。DAY1のセミファイナルを経て、ファイナルに選出された7社が登場した。選考をくぐり抜け、DAY2のファイナルステージに挑んだのは「Synspective Inc.」「BlueSpace.ai Inc.」「Tractable Ltd.」「Turing Chain Ltd.」「Alterpacks Pte. Ltd」「Alchemy Foodtech Pte. Ltd」「京都フュージョニアリング株式会社」の7社だ。
写真:SUNRYSE(ファイナルステージの様子)
ファイナル進出企業の7社はそれぞれステージも分野も異なっていたが、様々な角度でアイデアを披露し、力強く事業の未来について語り、会場を盛り上げた。
審査員からは、競合企業の存在やグローバルでの顧客獲得接点、収益化方法など事業をスケールする上での重要なポイントについての質問が飛び交い、世界を代表する唯一無二の企業になれるのかが問われるステージとなった。
ファイナルステージの総評について審査員からは「世界中から集まった多様な企業を審査する機会に立ち合えてとてもワクワクした」とコメントが添えられた。
写真:SUNRYSE
見事優勝に輝いたのは、「京都フュージョニアリング株式会社」であった。同社は、安全でクリーンな核融合エネルギーの実現を加速させる京都大学発のスタートアップである。
長年夢物語とされてきた核融合であるが、2022年12月には米国エネルギー省(DOE)と国家核安全保障局(NNSA)から、核融合反応において投入量以上のエネルギーの生成に成功したと発表されており、着実に実用化へ近づいている。
同社は、核融合の商用化に必要となる主要コンポーネントについて研究開発を実施し、世界中の民間企業や研究機関に工学的ソリューションを提供している。同社のコアプロダクトであるジャイロトロン(核融合炉の主用部品で、2,3年に一度買い替えが必要になるもの)を含め、現在3種の部品を開発しているとのことだ。
当日登壇された「京都フュージョニアリング株式会社」の世古圭氏は、優勝直後のインタビューで以下のように語っている。
「まず核融合をこうやって知ってもらう機会をいただけたことが本当にありがたいです。そして、東京都の皆さんやジャッジの皆さんから核融合のポテンシャルを評価していただいて、次の社会を作っていくことに皆さんがコミットしてくださったと思ってるので、我々も頑張りたいなと感じています。あとは、日本発の本当のグローバル企業を作っていきたいなと思っております。」
閉会の挨拶を行った東京都の小池都知事からは、来年のCity-Tech.Tokyoが2024年の5月に開催されると告知された。また、City-Tech.Tokyoに加えて、「G-NETS Leaders Summit」「東京ベイeSGプロジェクト」についても紹介があり、来年もぜひお会いしましょう、と閉会の挨拶を締めくくった。
36の都市から、328のスタートアップが参加した本イベントは、おそらくパンデミック以降で日本初のグローバルなテックイベントになったのではないだろうか。
参加者の中からは、飲み物の配布やホール内に音楽を流してほしいなど海外のテックカンファレンス会場との違いを語る声も聞こえたが、アーバンなステージ装飾や大物ゲストの登壇、最新技術の紹介など、東京都の本気を感じられる2日間であった。加えて、City-Tech Challengeでは核融合を扱う「京都フュージョニアリング株式会社」が優勝するなど、これからの日本が大きく変化していく予感がするイベントとなった。引き続き日本の技術、スタートアップエコシステムに注目していきたい。
表題画像:Photo by SUNRYSE
執筆:長島光
編集:藤澤みのり、古川絵理
表題画像作成:鬼頭清香、小川菜生子