2018年から米中の貿易摩擦が話題になっている。世界の2つの大国が長い貿易紛争を経験することで、両国で生じる影響や、東南アジア(SEA)諸国への波及の可能性について、様々な立場からの憶測がある。ある噂によると、ベトナムは最大の勝者の一国になる準備ができているという。
ベトナム外国投資庁(FIA)によると、外国人投資家が新規に登録した資本金や拠出資本金などの合計額は、2017年に47%増加した。しかしその後貿易戦争が始まって以来は停滞している状況にある。これは主に、ここ数年の既存プロジェクトの資本流入が減少したことによるものである。
その一方で2018年以降、新規に登録された資本金や株式購入のための出資金については、2018年には18%増、2019年には27%増と拡大傾向にある。製造や加工業は資本が流入する産業のトップであり、外国直接投資(FDI)の65%を占め、2019年には48%増を記録していることをFIAは明らかにした。
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これは一般的な考えによって想定できるケースであり、驚くべきではない。というのは、米中貿易戦争が企業の多角化戦略として、中国から他の場所に事業を移転するペースを加速させているからである。
ベトナムは東南アジア域の製造業のハブとして知られている。特にエレクトロニクス分野と、繊維や衣料品・履物分野が盛んである。事業の移転の例を挙げると、ベトナムでアップルのワイヤレスイヤホン「AirPods」を製造している「Luxshare-ICT」は、2020年6月に数千人の新入社員の雇用を開始した。
中国からベトナムへの生産移転の可能性を裏付けるもう一つの現象は、中国のシェアが低下している中で、米国のアパレル輸入に占めるベトナムのシェアが恩恵を受けていることである。2020年3月と4月には中国を抜き、対米アパレルサプライヤーのトップとなった。
世界的なバリューチェーンの中でベトナムの位置づけを見てみると、ベトナムは主に中間層(付加価値の低い)が台頭しており、原材料は輸入に大きく依存している。輸出用の製品を製造し、組み立てる役割を担っているに過ぎない。
またベトナムは外国企業への依存度も高い。エレクトロニクス分野では海外からの直接投資が現地シェアの80%を占めており、繊維・衣料品生産の原料供給の80%は海外からのものである。
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紛れもなくベトナムは、企業が補完的な製造施設を設立するための代替候補として浮上してきている。それは魅力的な生産コストや自由貿易協定なども影響を与えているといえるだろう。
近年批准されたEUとベトナム間の自由貿易協定(EVFTA)とEUとベトナム投資保護協定(EVIPA)は、すべてのFTAの中でも特に注目されている。ベトナムがサプライチェーンの変化から生じる機会を最大限に活用する際に、役立つものである。
しかし、ベトナムの製造業の性質上、バリューチェーンの質が向上しなければ、タイやカンボジアなどの近隣の他国と労働コストの面で競合する可能性もある。
政府はグローバルなサプライチェーンとの連携を図るため、ハイテク製造業やインフラ投資を促進するよう努めているが、ベトナムで研究開発(R&D)活動を行っている多国籍企業は限られている。「Samsung」や「Renesas Design Vietnam」そして最新では「Qualcomm」が挙げられる。
上記以外にも、労働力プールの規模、熟練労働者の有無、生産需要の急激な急増を吸収する能力など、ベトナムが考慮しなければならないポイントは多くある。中国のペースに追いつくにはまだ長い道のりがあることを考えると、最終的には「チャイナプラスワン」戦略を採用した方が実現可能性が高いといえるかもしれない。
翻訳元:https://e27.co/is-the-supply-chain-shifting-to-vietnam-in-a-post-covid-world-20200713/