回復への道: アジアにおけるビジネス再開とそこから学ぶべきこと

COVID-19パンデミックからの回復を見据えた5段階の職場復帰プランと、来るべき「新しい日常」における新しいビジネスマネジメントの方法とは? いち早く復帰を目指すアジアから学ぶ。
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翻訳者コメント

COVID-19の拡大によって、日本も約1ヶ月に及ぶ全国的な緊急事態宣言状態を経験しました。その間に外出を伴う経済活動は停滞し、多くの事業者が厳しい状況におかれたことは疑いの余地もありません。宣言が解除された後も未だ見えない敵の脅威が収束する気配はまだありません。しかし、経済は少しずつ動き始めています。それは第二波に備えつつ、しかし適切な対策によって少しでも経済を回そうとする社会の意思によるものです。この状態がいつまで続くかはわかりませんが、私たちは初めて経験するこの異様な状況とその行く末を「新しい日常」として捉えなければならないでしょう。今回の記事の筆者は、一度ストップしかけたビジネスを強引に元通りにしようとするのではなく、段階を踏み、次の手も考えながら新しいビジネスの在り方にシフトしようという、そんなメッセージを発信しています。日本企業もこの事態を機に、働き方とビジネスマネジメントの見直しを行うべきかもしれません。

以下、記事本文です。

COVID-19は何百人もの人々の仕事を奪った。そして、あらゆる産業をストップさせ、世界中のマーケットに何兆ドルにも及ぶ損害をもたらした。

しかし、一部の経済史専門家が楽観視するように、深刻な景気後退の後にはいつでも成長と繁栄の時期が待っているかもしれない。20世紀、世界的な恐慌と2つの世界大戦という苦難を乗り越えた先にあったのは、生活水準の向上と自信に満ち溢れた新しい社会の誕生だったことを思い出すべきだろう。

アジアはビジネスの再開に向けた準備を進めている

「日常」への復帰にはまだ程遠いかもしれないが、4月6日の時点で、国際通貨基金(IMF)は、中国社会回復の兆しは限定的であるものの、良い兆候も見られると言及した。そして1日の新規感染者数は低水準だったこともあり、実際に武漢は数ヶ月間にも及ぶロックダウンをついに解除した。

旅行の規制は緩和され、中国は2月以降の完全な足踏み状態から、その経済の大半を何とか再始動させることができるようになっている。公式発表によると、3月の工業生産は前年に比べて予想を1.1%下回ったが、工場の稼働は当初の想定よりも思いの外早く再開されているという。

大方のアナリストは3月以降のデータを見て中国経済が最悪の状況を脱したという見解を示している。とはいえ、投資家や消費者の信頼を取り戻し、消費行動が元通りになるまではしばらく時間がかかるだろう。しかし、「AxiCorp」のアジア太平洋地域の市場戦略担当であるStephen Innes氏は「(この状況でも)電気はつき、人々は仕事をしています。だから、最終的に消費は元通りになるでしょう」と述べている。

また、北アジアにおいて、厳しい取り締まり体制によって、早期にソーシャルディスタンシングを実践した地域では、中国のように新規感染者数は一桁台まで減少した。監視追跡技術の向上で、香港、マカオ、台湾、韓国なども経済再始動のプロセスは始まっている。

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アジアから学ぶこと

アジアやその他の地域の経済が徐々に回復に向けて動く中、ビジネスリーダー達はその先の将来について考えなければならない。ビジネスの回復は重要なイベントであり、あらゆるレベルのビジネスであっても、戦略的優位と新規事業での成功のためには、準備と計画が必要である。

ビジネスにおける慣習(=Practice)が変化していくのは当然のことだ。最近、Ariana Huffington氏はパンデミックについて「これまでのノーマルに戻る必要はないのです。もし全て元通りになってしまったら、それは逆に今回の教訓を何も吸収していないこと意味するでしょう」と述べている。

では、ビジネスリーダー達はCOVID-19危機からの回復において、どのように仕事を再開させ、新しい未来のマネジメントを考えれば良いのか?その答えは、私たちが提唱する5段階のプランにあるだろう。

何が変わり、何が変わらないかを見極めること

大きな変化もあれば、少しずつ変わりゆくものもある。だが、いずれにせよ、同じままではいけない。「Don't stay the same」の精神である。ここで必要なのは、この機会を利用して変化を先取りし、適応することだ。まずはあなたが知る限りの業務とその中で変化のあったプロセスと航空写真のようにマッピングすると良いだろう。既存の思い込みに果敢に挑戦し、実験する精神を忘れてはならない。ロックダウン中に何がうまくいき、逆に何がうまくいかなかったのかを分析し、その上でビジネスの長期的な利益につながる改善策を考えるべきである。

仮に同じプロセスの継続が好ましいと思われたとしても、新しいソーシャルディスタンシングのルールを遵守する上で、特定の処理方法を変更せざるを得ないようなことも多々あるだろう。また、スタッフと顧客の安全を守るためには、新しい日常の職場に慣れる必要がある。そしてそんな時こそ、仕事に必要もしくは必要になるかもしれない物資、や業務手順を見直して準備すべきだ。

例えば、スーパーマーケットにおいては、レジ内と顧客の間に透明なプラスチックの板を設置したりしている他、Honeywell Aerospace社のマレーシア拠点では職場感染防止の観点から在宅勤務を行なっている。

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製造業においても、現場の清掃強化やソーシャルディスタンシングの確保、PPEの使用などによって、密閉と危険を避けている。これまでの標準的な業務プロセスのほとんどは、このパンデミックを経て、スタッフの安全性と消費者ニーズへ応えることの両方を維持するために、何かしらの変更がなされているだろう。

最初の100日間が重要である

ビジネスの再始動において、最初の100日間の計画を立てることは、新しい日常における新しい業務に慣れるために必要なことである。

例えば、あなたのメンテナンスユニットにおいて、特定の日に75%のキャパシティで生産を行うとどうなるだろうか?あるいは、10日、25日、60日と、それぞれのタイミングで復職するスタッフに対して、どのようにすれば以前と同じような生産量の維持を求められるだろうか?

初期100日間の計画には、明確な目標、効果測定基準とその指標、そして見直しのためのフローが含まれている必要がある。例えば、あなたのビジネスの顧客需要が以前と同水準に戻り、売り上げ目標を修正できるのはどの時期だと予想できるだろうか?このように考えるべき項目は以下のように複数あるだろう。

  • 集中すること。特に、直接的な影響を受けている人たちには、明確で透明性があり正確なコミュニケーションをとることで、ビジネスコミュニティの関係を繋げるべきだ。

  • 社内のプロセスを見直すこと。今は、プロセスの見直しと効率の向上、そして無駄をなくすのにうってつけの時期であると捉えよう。

  • 新しいオペレーションを考案すること。少なからず、これまでのオペレーションに関連する状況には変化があったはずだ。政府の規制、スタッフの安全、衛生面での安全、などを考慮しつつも、顧客には特別なサービスを提供するためにはどのような方法を取るべきか考えよう。

大事なことは、必要なインプットや進展するために必要な条件とリソースは何か、ということを考えておくことである。

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従業員に対しては、信頼と目的を意識した繋がりを構築できるようなコミュニケーションを行うべきである

危機の発生で、職場環境はあっという間に混乱してしまう。その中でも、COVID-19は稀にある小さなトラブルではなく、想像を絶するほどの事態だ。多くの人と同じで、ビジネスリーダー達もこの途方も無いトラブルに対しての免疫があるようなわけではもちろん無いだろう。

それぞれのリーダーは、このパンデミックが発生したことで、従業員との最適なコミュニケーションを保つために、想像もつかないようなスピードでの行動を迫られた。そして、現在においてもなお、彼ら彼女らはそのコミュニケーションを次の段階へと進め、信頼と透明性と正確性のある、一貫性のあるものにする必要があるだろう。堅実なコミュニケーションを心がけることは、誤情報の拡散回避のみならず、継続的な生産活動の維持にも繋がる。だからこそ、顧客や従業員がそのビジネスを信頼し、会社のビジョンや目的に沿った対応であると感じられるようにしなければならないのだ。

従業員や関係者を含め、人々はいわゆる「ポストコロナ」の世界でビジネスがどうなるか、知りたがっていることだろう。ビジネスリーダー達は良いニュースも悪いニュースも一貫して伝えることが重要で、COVID-19の脅威が収まった後はどうなるのかという話題について、非現実的な約束をすることを避けなければならないだろう。オープンで誠実なコミュニケーションによって信頼感を生みだすことは、回復への取り組みをサポートし、コミュニティの感覚を発生させることに繋がるのだ。

アジアの企業の中には、パンデミック下においても信頼関係の構築に成功した、コミュニケーションプランの好例がいくつもある。例えば、中国の麺製品メーカーである「Master Kong」は、日々の需要を常に見直し、EC、小規模販売店、ディジタル化などの施策に注力したが、これによって同企業はサプライチェーン全体の信頼を強化することに成功し、強力なコミュニケーションの関係を確保することができたという。

オペレーショナル・アジリティとローカリゼーション戦略

どうなろうと、世界的にも各地域的にも、COVID-19の拡大で発令されている国境を越えた移動制限は、今後数ヶ月単位で継続や柔軟な管理が行われると予想される。ここにおける課題は、新しい働き方にいかに素早く、効果的に適応できるかということだ。考えるべきことはたくさんある。その地域外におけるクライアントをどのように獲得し、繋ぎ止めるのか。そして、収益源となる重要な資材や熟練の人的リソースなどをどのようにして持続的に確保し続けるのか。そして、現在は保有したまま眠っているリソースプールの中からどのようにして利益を生み出せば良いのか。

これらを解決するためにはZoomやTeamsといった、新しいコミュニケーションツールや、コラボレーションのためのリモートワークプラットフォームなどが必要になることは間違い無いだろう。そして、長期的な目線で見れば、資材の調達方針(=sourcing policy)の戦略的変更や、リソースギャップや限界を乗り越えるための同地域内におけるローカルデリバリーパートナーの存在がより重要になってくるはずだ。

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とある調査によると、中国やインドネシア、マレーシアのJohor Bahru、またはインドのGujarat州・Uttarakhand州などのような国営の工業地帯の登場と台頭は、現地で獲得できる資材や熟練労働者の存在と相まって、いくつかのアジア市場における製造業のニアショアリングやビジネスの俊敏性をサポートしているという。

あらゆる業界における企業は、サプライチェーンのリスク管理戦略上で、このパンデミックによる危機によって浮かび上がった弱点を分析すべきである。そして、最重要課題は、国境の閉鎖と国内経済の開放が進む中で、いかにして資材やリソースなどを本国で調達できるかということだ。

そのため、企業の資材調達部は、これまでのサプライチェーン管理システムを応用したAIツールなどを活用することで、これまでは取引のなかった何百ものベンダーを見つけ出し、コスト削減と安定した資材の現地調達を実現できるだろう。

将来、貿易関連の混乱が不可避なものになった時、一部のメーカーはその影響を吸収するために防衛戦略を取ってしまいがちになるだろう。しかし、より高度な調達戦略や調達のためのインフラに投資している企業であれば、その際の選択肢は格段に増えていることだろう。そして、失速することなく、ピボットのためのオペレーションの俊敏性は向上し、競合他社に対して優位を確保することができるのだ。

事業継続計画戦略の再定義で未来を勝ち残れ

コロナウイルスによるパンデミックにも、他の危機と同じく、必ずスタートがあり、経過点があり、詳細はまだわからないが願わくば終わりがくるだろう。私たちがどこから来て、今どこにいるのか、そして将来的にどのポジションにいるべきかということを考えるのは、非常に効果的である。未来への時間経過のなかで、ある組織は回復力を持ち、またある組織は壊滅的なダメージを負うだろう。この危機の渦中においては、それぞれのリーダー達の行動が、運命を大きく左右することになるのだ。

「RMA Group」はバンコクに拠点を置く自動車会社である。実は、同社はCOVID-19のような最悪の事態も想定して準備を行い、事業継続計画戦略(BCP)を用意していたという。同社のCIOであるAlex Konnaris氏は「当社では長年に渡って、スタッフがリモートワークをせざるを得ない事態を経験してきました。その度に、デジタルトランスフォーメーションの長期戦略も相まって、多くの重要なシステムをクラウド上に移行し、インターネットへのアクセスを用いて環境に適応してきています。だあからこそ、当グループのBCPはこのパンデミックによる危機の乗り越えに十分効果を発揮しているのです。また、十分なセキュリティや監視機能を持ったクラウドシステムは、稼働しているモバイルワーカー達の信頼度も向上させているのです。」と述べている。

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あなたのビジネスにおける将来的を見据えたBCPは、このパンデミックの経験を経て、最終的には今と違うものになるだろう。今回のブラックスワン的な危機と、これまでの数ヶ月間で得た教訓をBCPに反映させ、ビジネスをより強固なものにすることが重要だ。従業員の安全、顧客への最高のサービス、強固で回復性の高いサプライチェーン、キャッシュリリースの計画などを適切に考慮し、復活を迅速に行うための指針となるようにすべきである。

「Be Ready」...メッセージは明確である。

あらゆる危機と同じく、急激な変化が過ぎ去った後に、何をすべきかを考えるということは非常に難しい。いま世界中で、多くのビジネスリーダー達は現状に執着し、真にあるべき姿から従業員を遠ざけてしまうような父権主義的アプローチを取ってしまっている。

しかし、従業員と適切なコミュニケーションを取り、信頼関係を築き、テクノロジーの力を借り、適切なBCPの準備とローカリゼーション戦略の推進を行っているアジアのいくつかの企業に注目すれば、ビジネスの回復における有効なアプローチについて、価値あるインサイトを得ることができるはずだ。

紀元前5世紀、中国の軍師であり哲学者である孫子は「危機の中にこそチャンスの種が眠っている」と述べた。COVID-19のパンデミックは、多くの人々にとってまさしく「災害」であるが、着実に準備を行なっている者にとっては、将来的に大きなチャンスを生み出す可能性のある「種」なのである。

画像出典: engin akyurt on Unsplash

翻訳元: On the path to recovery: Lessons learned from Asia on how to return to work

記事パートナー
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執筆者
滝口凜太郎 / Rintaro TAKIGUCHI
Researcher&Writer
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