2012年にナイジェリア中央銀行がキャッシュレス政策を導入した時、高いレベルのファイナンシャルインクルージョンの実現と現金への依存度が低下した経済を想定していた。この政策を後押ししたのは、様々な決済インフラ整備の進展と、テクノロジーを活用した革新的なフィンテック企業の台頭だった。
2011年には、ナイジェリアの銀行のコンソーシアムが NIBSSインスタント・ペイメント(NIP)計画を設定した。これは、口座番号ベースでのオンラインリアルタイムの銀行間決済ソリューションで、金融取引を行う顧客に瞬時に価値を提供するためのものである。これを受けて、ナイジェリアでは新世代のフィンテック企業が台頭してきた。
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パーソナライズされた金融サービスを提供するという革新的な特性で注目されているフィンテック企業は、近年、規制当局や投資家の注目を集めている。Statistaによると、2018年の世界のフィンテック投資額は1,118億ドルに達した。
Techpointの2018年と2019年のナイジェリア・スタートアップ資金調達レポートによると、フィンテック企業が資金調達の大部分を占めている。この傾向は2020年第1四半期にも継続しており、フィンテック企業が同四半期の資金調達総額の約82.2%を占めている。
PwCがナイジェリアのフィンテックと銀行部門に関する報告書の中で述べているように、「フィンテックスタートアップの著しい成長は、金融サービスのデジタル化の進展、比較的低コストでの運営、グローバルな規制構造の台頭、そしてフィンテックサービス(融資保険、投資、個人金融管理などを含む)のアップグレードが原動力となっている」
以前の記事でも述べたように、フィンテックスタートアップは、モバイルバンキングや預金、引き出しのサービスだけでなく、ファイナンシャルインクルージョンを推進するあらゆる金融サービスを網羅している。
これまでのところフィンテック企業は、サイバー攻撃や詐欺、従来の銀行からの顧客データへのアクセスの困難さ、ブロードバンド、クラウドコンピューティング、データセンター、電力供給などの重要インフラの制限など、多くの課題と向き合ってきた。
現在、フィンテック企業が調達する資金のほとんどが外国人投資家からのものであり、地元の投資家の参加はほとんどないため、地元のフィンテック起業家の多くは資金調達の課題にも直面している。
実際にTechpointの最新のスタートアップの資金調達レポートによると、2019年第1四半期にはスタートアップが調達した金額の68.6%を外国人投資家が占めていたが、2020年第1四半期には99.8%にまで上昇している。
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現在のところ、ナイジェリアにはフィンテックに特化した適切な規制がなく、フィンテック企業を監督する特定の機関もない。
ナイジェリア中央銀行は、フィンテックサービスの提供について一般的な監督を行う
ナイジェリア通信委員会(NCC)は、USSDやモバイルマネーなどの通信インフラを活用したフィンテックサービスの提供を規制する
証券取引委員会(SEC)は、資産運用におけるオファリングを規制する
国家情報技術開発庁(NITDA)は、データプライバシーの問題を規制する
ナイジェリアの前議会では、フィンテック規制法案が提案されたが、それ以降は大きな進展が見られていない。現状、ほとんどのフィンテック企業はマイクロファイナンス銀行などのライセンスを利用している。しかし規制の多くは具体的に示されているわけではなく、暗にほのめかされている程度である。
上記のように、アフリカでのVCの取引はすべてのセクターにおいて、2020年には約10億ドル減少すると予想されている。資金調達の大部分を占めているにも拘らず、世界のフィンテック企業はこの資金減少の難を逃れられないかもしれない。
Finch Capitalによると、企業のVC主導の投資は減少しており、世界のフィンテック企業の資金調達額は2020年第1四半期には約60億ドルにまで減少したと言われている。
このような暗雲が立ち込める現状にもかかわらず、一部のスタートアップではパンデミックの影響がポジティブに働いているようだ。
PwCによると、人工知能(AI)、ブロックチェーン、IoT、ビッグデータ、オープンバンキングを採用している消費者向けプラットフォーム、中小企業向け融資プラットフォーム、そしてフィンテックプラットフォームは、パンデミックの影響から最も恩恵を受ける立場にあるという。
一方で、顧客のリスク回避、取引活動の減少、パンデミック後に期待される活動の減少により、デジタルプレゼンスが弱い従来型の銀行や、ウェルスマネジメント・外国為替に特化したプラットフォームは大きなプレッシャーを受けるだろうと考えられている。
PwCは、融資、住宅ローン、不動産テクノロジー(プロップテック)への資本流入は増加し、保険テクノロジー(インシュアテック)、決済、ウェルスマネジメント・フィンテックへの投資は減少すると予想している。
ナイジェリアでは、2020年第1四半期のフィンテック投資は2019年第1四半期の4倍となり、やや快調と見える。ナイジェリアは2月下旬に最初のコロナウイルスの症例を記録したが、このセクターもまたパンデミックの影響を受けているようだ。
PwCは、2011年から2018年の期間におけるナイジェリアでのフィンテックの資金調達額は、2億400万ドルあったとしている。2018年だけでも、フィンテック企業は1億340万ドルを確保しており、この期間のスタートアップの資金調達総額の約58%を占めていた。
PwCによると、決済、貯蓄/投資、保険領域のフィンテック企業がCOVID-19の影響を最も受けるという。ナイジェリアのほとんどの企業が決済やデジタルレンディングの分野で事業を展開していることを考えると、これらの分野が最も脆弱になるだろうとPwCは予想している。
決済サービスを展開するスタートアップについては、世界的なフィンテック投資の減少により、デジタルインフラやサービスの物理的なアップグレードと拡張に必要な資本が得られない可能性が生じると報告書では述べられている。
デジタルレンディングのプラットフォームについては、ロックダウン措置が事業活動、雇用者、起業家に与える影響や、一部の従業員のレイオフにより、借り手が短期融資の債務を期限通りに履行できるかどうかということに影響を与える可能性が示唆されている。
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ロックダウンが施行されて以来、一部の銀行では支店の閉鎖を余儀なくされているため、デジタルチャネルの使用が求められる人々も出てきた。
ほとんどの銀行はサービスのデジタル化に向けて前進しているが、先週ラゴスで行われたロックダウンの一部解除後、大勢の人が銀行に集まったことで、ナイジェリアのほとんどの従来型の銀行において、そのデジタル化のレベルが低いことが浮き彫りになった。
しかしこれは、多くのフィンテック企業にとっては、サービスをスケールアップして市場を獲得する好機となる可能性をも示す。熾烈な競争につながる可能性であり、そして同時に、顧客の利益に繋がるような銀行とフィンテックのコラボレーションの可能性でもある。
また、PwCが世界規模で予測しているように、人工知能やブロックチェーンなどの最先端の技術は、ナイジェリアの金融サービスにおいても、その将来を決定づける主要なテクノロジーとなるだろう。
PwCによると、サイバー犯罪との戦いの強化、強固なフィンテック特有の規制の整備、重要なインフラの整備、資金調達プラットフォームへの容易なアクセス(同国の資本市場への容易なアクセス)などが、パンデミック後の時代に必要とされる支援だと考えられる。
ナイジェリアのスタートアップは2020年第1四半期に5,540万ドルを調達したが、その99%以上は海外からのものだった。詳細はこちらのレポートから。
翻訳元: "How the pandemic will disrupt banking and fintechs in Nigeria"
https://techpoint.africa/2020/05/12/pandemic-banking-fintechs-nigeria/