ソウルがアジアで最も熱いスタートアップの拠点になりつつある3つの理由

韓国の首都・ソウルは、現在は世界で最も有望なスタートアップ拠点として注目を集めている。政府の手厚い支援や金融面でのサポート体制などをふまえて、今後ベンチャーキャピタルにとってなぜソウルが魅力的なスポットになり得るのか、3つの理由を紹介する。
VC/CVC 研究機関 経営者

韓国の首都・ソウルは、「Samsung」や「Hyundai」といった大手企業で知られている。しかし現在はそれだけでなく、世界で最も有望なスタートアップ拠点として話題に上がることも多い。

1,100万人の人口を擁する東アジアの大都市は、静かに、しかし確実に、世界で最もダイナミックなスタートアップのエコシステムを構築してきた。「Startup Genome」が公開した2020年グローバル・スタートアップ・エコシステム・レポートによると、ソウルのエコシステムの評価額は390億米ドルで世界平均の約4倍、アーリーステージの資金調達額は10億米ドルだった。総合ランキングでは、ソウルは20位にランクインしている。

「Startupblink」は2020年、ソウルの順位を21位にランク付けしており、前年よりも9つ順位を上げた。現在ソウルは世界トップ5のスタートアップハブの1つになることを目指しており、2022年までに17億ドル以上の資金を投入する予定だという。

ソウルはベンチャーキャピタルにとって、魅力的なスポットになりつつある。そこで今回は、3つの理由を深堀してご紹介したい。

 

 

1:相次いで誕生するユニコーン

スタートアップのエコシステムが形成されつつある指標のひとつに、ユニコーンの存在が挙げられるだろう。

2020年11月時点で、韓国には12社以上のユニコーンが存在している。これは世界第6位の数字であり、技術力の高いスタートアップが集積するイスラエルの約2倍の数に相当する。

 

ユニコーンに加わった最新の企業は、ライドシェアを手がける「Socar」だ。2020年10月に地元のプライベート・エクイティ・ファンド「SG Private Equity」と「Songhyun Investment」から、5,220万ドルの資金を得てユニコーンの地位を獲得した。

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「Socar」は韓国発のモビリティースタートアップとして、初めてユニコーンになった。これまでの韓国発のユニコーンスタートアップは、90億ドルの価値を持つeコマース大手で、韓国の「Amazon」とも呼ばれる「Coupang」、P2Pモバイル決済サービス「Toss」の開発者であるフィンテックのパイオニア「Viva Republic」、そしてバイオシミラー製品の開発を手がけるバイオテック企業の「Aprogen」などがある。

 

IPOやM&Aで撤退した元ユニコーンも含めると、これまでに韓国は20社のユニコーンを輩出している。これは、米国や中国には及ばないものの、その他の国と比較しても遜色のない数字である。

 

最もよく知られている元ユニコーンは、韓国最大のフードデリバリーサービス「Baemin」の運営を手がける「Woowa Brothers」である。同社は、2020年にドイツのベルリンに拠点を置く「Delivery Hero」によって、40億ドルで買収された。

「Baemin」の買収は、投資家や起業家、そしてジャーナリストに注意喚起を促した。「TechCrunch」では、Danny Crichton氏が当時下記のような文章を掲載している。

  

"サムスン以上に重要なハイテクコングロマリットに支配されているこの国で、経済のダイナミズムを牽引しているのはスタートアップ産業と文化産業である。また、国内の年金基金から(国内外の)新興企業に資金が流入しているため、従来の大企業でのキャリアパスを捨てて新興企業への道を歩もうとする起業家には、さらに多くのチャンスが待っている。"

"韓国経済のダイナミズムを牽引しているのは、今やスタートアップや文化産業である。国内の年金基金から、国内外のスタートアップに資金が流入している。従来の大企業でのキャリアパスを捨て、スタートアップへの道を歩もうとする起業家には、これからさらに多くのチャンスが待っているだろう。"

 

 

2:ソウルのスタートアップを下支えする金融シーン

ユニコーンスタートアップの台頭、そしてソウルのスタートアップエコシステムのダイナミズムが高まりつつある背景には、金融面での大幅な改善が挙げられる。Andy Salmon氏は、昔の韓国の悪しき時代について、「the Asia Times」にこう綴っている。

「銀行は通常、担保が豊富な巨大企業に融資を行う。韓国の初期のベンチャーキャピタルもそうした傾向があり、資産を持たない起業家は危険な負債を背負うことを余儀なくされていた」。

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しかし、今はそうではない。現在のスタートアップは、地元のVCや国際的な投資家の両方から資金を得られるようになった。「Samsung」のような韓国の伝統的な大手企業でさえも、社内にインキュベーターを設置して、有望なスタートアップの育成や支援をしている。

2019年の韓国の新規スタートアップ投資額は記録的な数字を記録し、第1~3四半期で23億ドルに達した。さらに最近は、大企業がベンチャーキャピタルファンドを設立し、スタートアップに直接自由に投資できるように規制が変更された。そのため、今後もスタートアップ投資額はさらに高く跳ね上がる可能性がある。

 

 

3:韓国政府の手厚いサポート

韓国政府は金融面での規制の変更に加えて、ソウルのスタートアップシーンを積極的に育成している。「Startup Genome」でCEOを務めるJean-Francois Gauthier氏は、2020年冒頭に「TNW」に下記のように語っている。

「韓国政府はソウルの成長を支援するために、様々な政策を打ち出してきた。国やソウル市といった行政ほど、スタートアップを成長させるために大胆な行動を打ち出しているものはない。ソウル市長は世界のトップ5になるために、先日大規模な投資を発表した。これは非常に野心的な目標であると言えるだろう」

 

ソウル市は世界のスタートアップ都市トップ5に入るために、1兆9000億ウォン(約16億ドル)のイニシアチブを開始。同市は、地元のスタートアップが新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを克服するだけでなく、パンデミックを更なる発展の機会として活用できるように、積極的に支援している。

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例えば、ソウル市は今年、有望なスタートアップに対して5,400万ドルの支援を実施。その中には有望なスタートアップに対して行った10,000人の技術専門家の人件費の支援も含まれている。

 

韓国の国家レベルでは、情報環境を一変させる「デジタル・ニューディール」のために、620億ドルを計上している。世界経済フォーラムによると、韓国はテックインキュベータープログラム(TIPS)といったプログラムを通じて、スタートアップの集積地・ハブとしての地位を確立しつつある。

 

韓国経済では「Samsung」や「LG」といった財閥系の企業(chaebols)が、中心的な役割を果たしてきた。しかし近年では、スタートアップの重要性が増しつつある。TIPS(Tech Incubator Program for Start-ups)は、国が主導するインキュベーションプログラムで、政府の資金を選択的にマッチングさせ、有望なスタートアップの発掘につなげて育成している。政府は惜しみなく資金を提供しており、スタートアップは失敗の可能性を心配することなく、高い目標を達成できる。

 

テクノロジーを活用しながら、新型コロナが引き起こしたパンデミックに対応している韓国は、世界的な賞賛を集めつつある。韓国政府はポストコロナウイルス社会のリーダーとして、スタートアップの育成に力を注いでいる。米国の多くのスタートアップも韓国に注目している。

今後も韓国の大手財閥は、韓国経済において大きな役割を果たしていくだろう。しかし特にソウルにおいては、スタートアップの台頭にも注視すべきである。

 

 

翻訳元:Why Seoul is emerging as Asia's hottest startup hub

記事パートナー
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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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