なぜベトナムは新型コロナ後に最も強い国として台頭する見込みがあるのか?

新型コロナ対策の優等生といわれるベトナムは、なぜ感染拡大の措置において功を奏したのか。3つの理由と今後の可能性について探る。
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多くの国が新型コロナウイルス感染症の深刻さと拡大に対処し始めたばかりである中、ベトナムは2020年4月には社会的な距離を置く措置を緩和し、社会を再開した最初の国の一つである。

地図上の地理的形状から、ベトナムは「昇る龍」としても知られており、東南アジアで初めて世界的な大流行から脱却し、ビジネスや国内旅行の再開を可能にした。さらにシンガポールが旅行者のために国境を再開した際に、東南アジアで最初の国の一つとしても認定されている。

べトナムの新型コロナの感染者数は349人(6月22日現在)で、死亡者はゼロである。これはシンガポールの42,000件以上、フィリピンの30,682件、マレーシアの8,587件と比較すると、極めて対照的な結果と言えるだろう。

このパンデミックにおけるベトナムの躍進に、国際社会は驚いている。ベトナムを取材することになった朝日新聞の記者は、ベトナムで働く日本人の次のような発言に関心を寄せている。「新型コロナの発生件数が非常に少ないことや、ベトナム政府が施行した厳しい施作の話をしても、東京では誰も信じてくれなかった」。

新型コロナの発生を受けて、IMF(国際通貨基金)のASEAN5カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)の2020年のGDP成長率予測は-1.3%(シンガポールは-4~7%)と据え置かれた。しかしベトナムは2021年に7%の強いリバウンドが予想されているため、依然として2.7%のプラス成長が見込まれている。ベトナムのグエン・スアン・フック首相は、IMFの予測にもかかわらず、2020年の経済成長目標を5%以上とポジティブにみている。

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これらのデータから、ベトナムが東南アジアで最も経済に強い国の一つになり得る準備ができていることがわかる。ここでは主に3つの理由をみていく。

迅速な措置とデジタルサービス

ベトナムがこのような優れた成果を上げることができたのは、政府の迅速かつ断固とした行動と、一般市民の協調的で献身的な努力の結果である。新型コロナに関する情報が非常に少ない時期に、いち早く行動を開始した。

2020年1月には全国的に学校を閉鎖し、渡航制限が始まり、国境もすぐに閉鎖された。 また積極的に接触者の追跡を実施し、感染が疑われる人物を2週間隔離した。

ベトナムの保健省はアプリ「NCOVI」を開発し、保健当局は5,000万人以上のユーザーを持つ国産メッセージアプリ「Zalo」を通じて警告や命令を発信した。またインターネット上ではコロナウイルスの啓発ポップソングが流行した。

迅速な行動とデジタルサービスは、ベトナムの新型コロナとの戦いにおいて透明性と協調性、そして情報に基づいた決定を可能にし、パンデミックからの迅速な脱出へと導いた。

強靭な経済とスタートアップエコノミー

「ビジネスタイムズ」は「モビリティの指標はベトナムの活動の回復が最も早いことを示している。小売店やレクリエーション施設への移動は基準値を15%下回ったが、対策が開始される前は基準値を60%以上下回っていた」と報じている。

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ベトナムといえば、友好的な国民性のほか、圧倒的な大自然や、30年以上もの間独立を目指して戦ってきた歴史を思い出す人も多いだろう。今回の新型コロナのエピソードを通して、世界はベトナムを新たな光のなかで見直すことになった。現在は回復力があり安定した強靭な国として、またアジアにおけるイノベーションと起業家精神のハブの一つとして注目されている。

ベトナムのイノベーション・エコシステムは、eコマース、ソフトウェア・アウトソーシング、AI、フィンテック、ヘルステックなどのスタートアップにとって魅力的なものである。エコシステムには3,000社以上のスタートアップが参加しており、ベトナムのスタートアップへの投資総額は2017年から2019年の2年間で6倍に増加した。

またテック系スタートアップの中には、オンラインでの医療相談、医療供給体制、ヘルスケアサービスへのオンデマンドアクセスを提供し、新型コロナウイルス感染症との戦いに貢献している企業もある。

国境を越えた強い協力

「新型コロナに関するデータ曲線を先取りしているため、ASEANの議長はパンデミックに関して地域の対応をリードしたり、意志決定したりするのに有利な立場にある」と、オーストラリア戦略政策研究所のシニアアナリストである Dr Huong Le Thu 氏は「Straits Times」に語った。

ベトナムは新型コロナへの対応において、隣国と緊密に連携し、地域の成長とイノベーションを推進している。

地域のスタートアップエコシステムの開発と統合を推進するため、ベトナムの公共や民間セクターのステークホルダーは、地域に進出するスタートアップのための双方向的な市場アクセスの実現に向け、国際機関と積極的に提携してきた。

「クエストベンチャーズ」は、シンガポール通商産業省やサイゴン・イノベーションハブ(SIHUB)の法定理事会と連携し、ベトナム・グローバル・イノベーション(VGI)アクセラレーションを通じて、ベトナムに進出するシンガポールのスタートアップを支援している。

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東南アジアのベンチャーキャピタルをリードする「Quest Ventures」は同社のメンターや専門家の幅広いネットワークを通じてスタートアップを支援している。またスタートアップは、質の高い包括的なオンライントレーニングを受講したり、(世界的な健康状況が許す限りにおいては)ベトナム国内のマーケットにアクセスしたり、エコシステムのプレイヤーとの長期的なパートナーシップを確立することもできる。

このパンデミックにおいてベトナムが最も早く将来の兆しを見出したのは、当然の結果と言えるだろう。迅速な行動や回復力、国境を越えた協力を元にした戦略は、ベトナム経済とスタートアップエコシステムがこの地域で強く台頭することを可能にするものでもある。

翻訳元:https://e27.co/why-vietnam-is-going-to-emerge-the-strongest-post-covid-19-20200703/

‍表題画像:Photo by Peter Nguyen on Unsplash (改変して使用)

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執筆者
土橋美沙 / Misa Dobashi
Contents Writer
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